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本書は,百貨店(小売業)とショッピングセンター(商業不動産業)という異質なビジネスシステムが,互いに他のビジネスシステムに接近しようとしている動向を,「百貨店のSC化」と「SCの百貨店化」と捉え,これまでの商業論・流通論では着目されることが少なかった「商業空間」の視点から,理論的な考察と6事例の具体的分析を通じて,その境界領域について論じており,著者の10年余にわたる研究を集大成した全4部15章からなる大著である。
百貨店とショッピングセンターのビジネスモデルと取引モデルに内在した詳細な分析を行うことによって,「百貨店のSC化」と「SCの百貨店化」を異質のビジネスモデルの転換過程として捉えるとともに,どちらかの方向に収斂することではなく「境界領域」とどまっていること,「境界領域」にあるが故に商業施設として差別化要素を獲得していると指摘している。
以上の内容からなる本書は,これまでの百貨店やSCを対象とした研究に新たな視点からアプローチしたものであり,その学問的功績が大きいものと評価できる。
また,本書に収録された既発表論文10編のうち7編が学会誌『流通』に掲載された査読論文であることからも,主として流通学会を舞台にした研究成果であることも評価される点である。
ただ,著者も述べているように対象とした事例が都市型商業施設(電鉄系百貨店や駅ビル内ショッピングセンター)に限定されている点やテナントや取引先側への考察が不足していることなど,今後,さらに深めるべき課題が残されており,今後の研究のより一層の深化に期待して第27回日本流通学会・奨励賞を授与することとした。
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